本書は、国立国会図書館蔵、喜田川守貞自筆稿本『守貞謾稿』全三十一冊の図版約一八〇〇点すべてと、その解説文を中心に編集したものである。
・「守貞謾稿」全31冊(国立国会図書館蔵)の中の全ての図版約1800点を1冊にまとめ、さらに守貞が引用した「骨董集」、「和国百女」をはじめとする種々の文献や浮世絵版画等から、参考図として約260点を併載。
・より鮮明な図版にするため、原画の線描を忠実に補筆、再現。
・本文中の図版に関連する記載事項もあわせて載せるが、難読字には振仮名をふり、適宜句読点をつけ、さらに難しい意味の言葉には( )内にその意味を補ったり、編著者注として、解説を加え、理解の便を計る。
・巻末に書名・事項等の索引付、事項索引から図版をたどれるので検索に便利。
・近世史・近世風俗史研究者、図書館・博物館はもちろんのこと,作家、イラストレーター、放送局・番組制作会社、出版社・新聞社など必備の一冊。
高橋雅夫 [タカハシマサオ] 1929年東京下谷生まれ。早稲田大学理工学部応用化学科卒。(株)パピリオ研究所入社、宣伝部・総務部を経て退社。日本風俗史学会創立に参加、常任理事。戸板女子短期大学非常勤講師等を歴任。日本化粧科学会、香道文化研究会、近世文化研究会、守貞謾稿研究会等を設立、代表。ビューティサイエンス学会理事長
時勢
地理
家宅
人事
生業
雑業
貨幣
男扮
女扮〔ほか〕
●刊行の辞 高橋雅夫
大阪に生まれた喜田川守貞は天保8年、28歳のときにはじめて江戸に下った。そのとき見た風俗が、上方とあまりにも違うのに驚き、記録をはじめた。幸い絵を描く素養があったので、町の建物や行商人の姿、男や女の髪型や衣装、履物、小間物、遊里、劇場などを取材し、文献をあさり、スケッチをして歩くこと30年。製本したら33冊、絵は1600点に達していた。今回、国立国会図書館の自筆稿本31冊の中から全ての図版を集めて1冊にまとめてみた。ところが、守貞の描いたものの中には、生活の中で、どのように使われていたのか、といういわゆるハードに対するソフトを伝える絵が少なかった。そこで参考図としておよそ260点を捜し集め、併載した。さまざまな分野の方にご利用いただけることを願っている。
●すいせんのことば
歌舞伎俳優 市川團十郎
「守貞謾稿」が江戸末期の風俗を克明に描写している貴重な文献であることは私も利用しているので知っていた。このたび風俗史の研究家高橋雅夫さんが31巻という膨大な量の中から図版だけを集め、さらに著者喜田川守貞が参考にした原本の図版と、関連図版を加えてくれたので、ヴィジュアルな新しい「守貞謾稿」が出来上がった。私の関係では、「戯場訓蒙図彙(しばいきんもうずい)」や「戯場楽屋図会」などからも引用され、誠に楽しい風俗図典といえる。
文筆家 杉浦日向子
「守貞謾稿」は、近世風俗史料の白眉として、長年愛されてきた貴重な本です。これまでも、多くの翻刻版が刊行されていますが、オリジナルの原文は説明不足で取り付きにくく、今ひとつ使い勝手が悪かったものです。このたび多数の貴重な参考図版を加え、慎重に原文を読み解いた本書の登場は、本当に喜ばしいことです。研究者だけでなく、一般読者の期待にこたえる一冊です。
江戸東京博物館館長
立正大学教授 竹内誠
「守貞謾稿」は、江戸と上方との生活文化の比較研究を、幕末に本格的に行った最初の書である。しかも有難いことに、豊富な挿絵入りである。ヴィジュアルだから、生き生きと江戸時代を今に伝えてくれている。幸い風俗史研究に造詣の深い高橋雅夫氏により、その豊富な挿絵を全て集成し、これに綿密な解題と索引を付した本書が刊行された。江戸時代の生活史・文化史・社会史・風俗史・都市史等々、広範な分野の研究に欠かせぬ必携の書となるに相違ない。
法政大学教授 田中優子
「守貞謾稿」は、今でいうヴィジュアル百科事典である。しかも、ふつうは屏風絵や名所図会や浮世絵風景画に出てくる人物が、まるでCD-ROMの事典のように取り出されて、クローズアップされ、その詳細な姿を見せてくれる。物売り、履物、かぶりもの、髪型等々、文章ではわからない江戸時代に生きて働く人々の姿が、目の前に現れる。ここではその特徴を見事に捉えた図版が網羅され、楽しみは尽きない。