中国文明の強靭なレジリアンスは長江流域の稲作文明に支えられていた。
考古学を中心とした新たな学術領域「総合稲作文明学」が稲作と文明の関わりにせまる最新の研究成果――
中国におけるイネ栽培化プロセスを多角的かつ高精度に復元し、長江流域に開花した新石器時代稲作文明の勃興と衰亡の要因を見極め、新石器時代末期の諸地方文明を経て、初期青銅器時代以降、稲作文明がいかに中国文明の構成要素として組み込まれていったかを究明する。
新たな遺跡の発掘や中国との共同研究、また、科学的な分析研究の進歩により、日本の稲作文化のルーツである、中国長江の稲作の起源にせまる。
中村慎一(なかむら しんいち)
1957年東京生まれ。東京大学大学院人文科学研究科考古学専攻博士課程単位取得退学。博士(文学)。国立文化財機構奈良文化財研究所研究員、金沢大学講師、准教授を経て、現在金沢大学教授。
主な著書に、『稲の考古学』(単著)、『中華文明の考古学』(共著)、『アジアの王墓』(共著)などがある。
劉 斌(りゅう びん)
1961年中国陝西省西安市生まれ。吉林大学歴史系考古専業卒業。
浙江省文物考古研究所所長を経て、現在、浙江大学芸術与考古学院教授。
『南河浜―崧沢文化遺址発掘報告―』文物出版社、『神巫的世界―良渚文化縦論』浙江撮影出版社、『良渚古城綜合研究報告』文物出版社などがある。
河姆渡と良渚―中国稲作文明の起源― 目次
まえがき(中村慎一)
緒論 浙江における新石器時代考古学の概説(劉 斌)
Ⅰ 自然環境と集落
上山文化と跨湖橋文化に関する諸問題(蒋楽平)
河姆渡文化研究に関する回顧と展望(孫国平)
衛星からみた良渚囲壁と塘山土塁(渡部展也)
良渚古城鍾家港遺跡中段地点の考古学調査の成果(王永磊・陳明輝・閻凱凱・朱雪菲・劉 斌・王寧遠)
良渚古城周辺における水利システムの発見と基礎的研究(王寧遠・袁俊平・趙 曄)
Column 暴れ川をどう治めるか─苕渓水利の歴史─(大川裕子)
中国近代学術史上の良渚考古学─中国文明多元論、“長江文明論”の歴史的系譜─(吉開将人)
Ⅱ 道具と技術
河姆渡文化と粥(久保田慎二・小林正史)
Column 田螺山遺跡発見のコクゾウムシ属圧痕(小畑弘己)
Column 中国新石器時代の土器から見つかった蜜蝋の化学的証拠をめぐって(庄田慎矢)
良渚文化の蒸し調理の特性─米調理民族誌の比較分析を踏まえて─(小林正史・久保田慎二)
木製品にみる生業活動の諸相─河姆渡と良渚─(村上由美子・西原和代)
Column 田螺山遺跡出土の「イチョウ」の木材、その意味は?(鈴木三男・小林和貴・大山幹成・秋山綾子)
田螺山遺跡・良渚遺跡群出土漆器のモノづくり技術(神谷嘉美)
河姆渡の編物、良渚の編物─長江下流域の編物の系譜を探る─(松永篤知)
玉器生産からみた良渚文化期の社会(秦小麗・中村慎一)
Ⅲ 動物と植物の利用
複合生態農業システムからみる中国の農耕文明(楊 平)
Column 稲作起源地の昔と今をつなぐ─長江下流域の食文化に関する調査─(細谷 葵・大川裕子)
Column 残存デンプン粒分析からみた田螺山遺跡の植物食(上條信彦)
菱角の遺伝的多様性の検証(石川隆二・山岸洋貴・片岡太郎)
Column 長江下流水郷地帯のヒシ利用の歴史(大川裕子)
中国新石器時代長江下流域の動物利用(菊地大樹)
Column 田螺山遺跡における魚類利用(丸山真史)
Column 長江下流域の初期稲作農耕社会にニワトリはいたのか?(江田真毅)
同位体分析からみた家畜利用の可能性(板橋 悠)
Ⅳ イネと稲作技術
プラント・オパール分析からみた河姆渡と良渚のイネと稲作(宇田津徹朗)
Column 良渚遺跡群より出土したイネ種子のDNA は何を語るのか?(田中克典)
Column 次世代シーケンサーを用いた植物遺存体のDNA分析(熊谷真彦・水野文月・王 瀝)
石製農耕具からみた長江下流域稲作農耕の成立(小柳美樹)
長江下流域における新石器時代の収穫具とその独自性(原田 幹・槙林啓介)
良渚文化期の石犂とその利用─水田層の変形から人間活動を復原する─(田﨑博之)
復元石犁の実験(小柳美樹)
Ⅴ 骨から復元する文化と社会
同位体生態学による長江下流域初期農耕民の生活と社会の研究─方法と展望─(米田 穣・板橋 悠・覚張隆史)
Column 良渚遺跡群から出土した特異な加工人骨群(澤田純明・鵜澤和宏)
水田稲作と結核(岡崎健治・高椋浩史・陳 傑)
Column 歯エナメル質による移入者検出と新石器社会における親族論(覚張隆史)
人骨の歯石の残存デンプン粒からみた長江下流域新石器時代の植物食(渋谷綾子)
Column 上海市広富林遺跡出土人骨の復顔(川久保善智・岡崎健治・陳 傑)
総論 中国稲作文明の形成(中村慎一)