いくつもの大輪の花のように多彩な仏像彫刻を輩出し消えていった天平時代の脱乾漆像・木心乾漆像・塑像などの技法上の流れを整理し、彫刻家の眼による独自の検証と考察によって、日本の古代彫刻史に画期的な視覚を開示した名著がついに復刊。
――日本の彫刻史は明治以降のわずか最近の百数十年余を除くと仏教彫刻史であるといえよう。また各時代に残された圧倒的な木彫仏像の数からいえば、仏教彫刻イコール仏教木彫史といっても一部を除いて過言ではない。ところが、その例外的な一部が日本の彫刻史上もっとも華やかに咲き誇った天平時代なのである。(「序文」より)
本書は、弊社より1998年2月に刊行した書籍の復刻版です。
著者の本間紀男氏は2015年3月に逝去されましたが、今回の復刻版刊行にあたっては、著者が生前に遺された資料を御遺族より提供を受け、これをもとに初版時の誤植等を修正いたしました。
なお、口絵も初版からの一部抜粋になっております。何卒御了承願います。(雄山閣編集部)
本間 紀男(ほんま としお)
工学博士 彫刻家 古典彫刻研究家
1932 年東京に生まれる。1956 年東京芸術大学美術学部彫刻科卒業。1958 年同学部専攻科(現大学院)修了。1966 年同大学大学院保存技術講座助手。その後、講師・助教授として古典彫刻の研究・教育にあたる。1984 年「X線による木心乾漆像の構造・技法・材質の研究」で東京工業大学より工学博士号を受ける。1987 年仏教造形研究所を設立。1963~1995 年新制作協会彫刻部会員。主として仏像制作および仏像修復・復元など古典彫刻の研究に従事。
主な作品には唐招提寺森本長老寿像、目黒不動吉田道稔大僧正像、香林寺四天王像(以上脱乾漆像)、慈雲寺日蓮上人像、光恩寺不動明王像(以上木像)などがあり、また修復・復元は建長寺、円覚寺、輪王寺など多数を手がけた。
2015 年3 月 逝去。
主な著書
「東国唯一の木心乾漆像」(『古代日本の鉄と社会』・1982 年・手嶋記念研究賞)、『X線による木心乾漆像の研究』(1987 年)、『木彫仏の実像と変遷』(2013 年)など。
序文
第1章 乾漆像
1 脱乾漆像(名称及び制作の記録/制作の過程/乾漆材料/脱乾漆像の出現/中国古代夾紵像とその影響)
2 木心乾漆像(木心乾漆像の誕生/木心乾漆像の構造、技法、材質について/木心乾漆像の動向/天平末から平安初期における技法の流れ/平安木彫像に及ぼした木心乾漆像の影響/過渡期像と完成像)
第2章 塑像
1 古典塑像(はじめに/現在の塑像と古典塑像/文献に見る塑像/現像する古典塑像の技法/塑像心木とその変遷/土壁と塑像)
2 敦煌塑像の技法(敦煌莫高窟について/各期の莫高窟塑像について)
3 ストゥッコから相粉へ―仏教塑像の流れ(ストゥッコの仏像/ストゥッコの技法、材料/相粉の技法とストゥッコ)
第3章 脱乾漆像制作の実際
1 香林寺四天王像の制作
2 最後の苧麻
3 唐招提寺故森本孝順長老寿像ならびに目黒不動吉田道稔大僧正像制作について
4 人中夾紵像、肉身像、加漆布像、遺灰像について
註/参考文献/資料(本書に関する用語解説/現存する塑像遺品一覧/現存する乾漆像遺品一覧/木心乾漆像の基本構造)