【2014年10月5日 毎日新聞 朝刊 MAGAZINE欄】
学会誌という形ではあるが、「研究と批評」とある通り研究論文と一緒に一般読者向けの歌舞伎評が載っている。これが面白い。新聞や雑誌の劇評とは一味違う本格的な批評だから。
たとえば堤春江のそれは、海老蔵の芸の姿を浮き彫りにして現代の歌舞伎の姿本質を描いているし、一方村上湛は玉三郎の問題点を正確に衝いて鋭い。
この五十二号は、文化文政時代に江戸劇団を二分した名優三代目歌右衛門と三代目三津五郎の特集。二人の名優の横顔が浮かぶ。なかでも金子健の三津五郎論が秀逸。今までとかく二枚目役者としてしかとらえられなかった三津五郎の実事の芸風を活写している。こちらは研究論文であるが、三津五郎の横顔がわかっておもしろい。(邦)