国選定保存技術「日刀保たたら」が提起するポストコロナの世界
なぜ近代科学が原発事故やコロナパンデミックに代表される限界を内包し、そして露呈させてしまったのか。その問題を解くよすがとして、全てを人力で行い、近代科学の対極の位置すると考えられつつ、自然の恵みのみを基盤として製鉄をする「たたら製鉄」の動向や歴史を通じて考えるという方法をとりたい。(「はじめに」より)
「日刀保たたら」とは、戦後、高まりゆく日本刀の原料供給への要望に応え、(公財)日本美術刀剣保存協会が復活させた“文化財”である。
本書は、四半世紀以上この現場に従事した著者だからこそ感得できた「たたら製鉄三原理」の中に、行き詰まった近代科学「思想」からの打開策があるという刺激的な思考に満ちた一書である。
黒滝哲哉(くろたき てつや〉
公益財団法人日本美術刀剣保存協会学芸部たたら・伝統文化推進課課長、刀剣博物館学芸員
1962年神奈川県に生まれる。1992年日本大学大学院文学研究科日本史学専攻博士後期課程単位取得退学。国立国会図書館非常勤職員などを経て現職
東京理科大学大学院・日本大学文理学部非常勤講師
主な著作 『美鋼変幻―「たたら製鉄」と日本人―』(2011年・日刊工業新聞社)
はじめに
第1章 鉄と鐵のできるまで ―近代製鉄とたたら製鉄―
近代製鉄での鉄の製造過程 ―高炉法での製鉄―/たたら製鉄での鐵の生成過程 ―たたら炉での製鉄―/たたら現場職人による鐵の生成メカニズムへの「理解」
第2章 文化財保存技術としての「日刀保たたら」とそれを支えた歴史
選定保存技術としての日刀保たたら/日刀保たたらの周辺環境とその意義/日刀保たたら内の施設概要/たたら製鉄で使用する主な道具 ―道具からの職人論―/たたら製鉄をまもり発展させた木炭生産 ―「社会的共通資本」としての森―/日刀保たたら操業の広義と狭義の二側面
第3章 たたら製鉄の盛衰から見る近代科学 ―「姑息」「幼稚」「未開」から平準化へ―
たたら製鉄を否定した近代製鉄 ―「姑息・幼稚・未開」―/幕末期からたたら製鉄の終焉まで/殖産興業とものづくり、工部大学校、職人観の変遷/平準化を求められた近代とたたら製鉄/たたら製鉄から導き出せる三つの原理/近代科学を再強化するために ―たたら製鉄三原理を通じて―/「わからない」ことを軸にした科学論/勝ち負けの無い競争とツートップからみる科学論
第4章 たたら製鉄三原理から再考する近代科学 ―三・一一とコロナパンデミックを題材に―
コロナパンデミックと「わからない」ことの重要性/たたら製鉄が現在の我々にもたらしてくれるもの/「人文知」への再評価 ―たたら製鉄の知見から―/たたら製鉄が近代科学の再強化に貢献するために―「姿見」としてのたたら製鉄―/自然を第一に考える「製鉄文化」への再評価
おわりに