ここに生きていくことと正面から向き合うということは、たんに過去を継承して、未来につなげていくことを意味しているだけではない。
現在を生きるひとりの人格として、あるいはひとつのコミュニティとして、現代の課題に向き合い、解決していかなければならないということを意味している。さらに言うと、現代における新しい戦略を生みだし、地域において実践していかなければならないということをも意味している。本書の表題が「町並みの保存」だけでなく「創造」を挙げている点に、その姿勢は端的に表れている。
國學院大學教授・東京大学名誉教授 西村幸夫「刊行に寄せて」より
永江寿夫(ながえ・ひさお)
1959年、福井県生まれ。
天龍寺金剛院、大徳寺本坊に寄寓。1987年より、旧上中町の文化財担当職員として奉職。以来、文化財保護行政に携わる。若狭町歴史文化課長などを歴任。
現在、若狭三方縄文博物館長、若狭町歴史文化館長、学芸員。
単著:『若狭を貫穿する釈尊の悟りの命脈』(私家版、2013)など。
共著:『未来へのまなざし』(ACCU、2007)、『古代文化』59 号(財團法人古代學協會、2008)、『観光まちづくり』(学芸出版社、2009)、『文化遺産と現代』(同成社、2009)、『季刊考古学・別冊』19 号(雄山閣、2013)、『没一〇〇年顕彰記念誌 釈宗演』(釈宗演を顕彰する会、2019)など。
共編著:『向山1号墳』(若狭町、2015)など。
町並みの保存と創造
◉主な内容◉
刊行に寄せて 西村幸夫
はじめに
第一部 歴史編
若狭街道熊川宿/若狭熊川番所の歴史的考察
第二部 まちづくり編
若狭熊川宿の「保存」から「まちづくり」へ/古い町並みに新しく住まう―上中町(現・若狭町)熊川宿伝統的建造物群保存地区―/ここに生きていくこと―若狭熊川宿―/熊川宿・ブータン歴史的建造物保存文化交流事業を通じて感じたこと/創造的に歴史を生きる―鯖街道熊川宿―/日本ナショナルトラスト設立四〇周年記念大会参加随想
第三部 理論編
伝統的建造物群の保存を成立させる理念的私論―吉田桂二先生の書かれたものを仰ぎつつ―/曼荼羅的協働で行う町並み保存の醍醐味/「近代」・「商品」・「内発的発展」について思うこと―熊川宿・ブータン歴史的建造物保存文化交流事業を通じて―/伝統的町並みのなかで生きていくこと―若狭熊川宿の思い―/福井県若狭町熊川宿―歴史を生きる町―/地域と文化―ここに歴史と文化を学びながら生きていくこと―/地の記憶をたどりながら、ここに生きていくこと―若狭鯖街道熊川宿の逸見勘兵衛家の試みから―
第四部 終章
熊川の新しい展開/町並み保存の究極/文化財における「近代の超克」私論
本書の要旨
熊川宿のまちづくりの歩み