時代の転換点をもたらす災害―
北条早雲の伊豆侵攻戦にみる、戦乱と津波災害の関係性を軸に追求する。
歴史展開へ影響を与えた海溝型地震と巨大津波を、津波堆積物と史料の比
較検討を通して検証を試みる。
主な目次
序 章 伊豆の武士団と北条早雲
第二章 足利茶々丸と伊東・宇佐美氏の動き
第三章 北伊豆の征服まで
第四章 出土資料が語る戦国時代
第五章 決着をつけた二度の津波
第六章 明応四年津波をみた早雲
第七章 明応地震に関する文献史料の再検討
エピローグ 巨大津波と北条早雲の行動
コラム 落城伝説と早雲の進攻戦
金子浩之『戦国争乱と巨大津波-北条早雲と明応津波-』
今を生きる私たちにとって最も衝撃だったことの一つが五年前の三月十一日に起きた東日本大震災である。地震をはじめとする災害は実に大きな影響を歴史に与える。しかしながら我々は政治史は政治史、経済史は経済史というように、分野別に研究することに慣れ、必要が求められながらも総合化に弱かった。考古学を専攻する筆者は、歴史学、民俗学、そして地震学に切り込み、従来にない視点から北条早雲の伊豆侵攻を読み直そうとする。
その結果、これまで明応二年(一四九三)のわずか三十日でなされたと理解されてきた早雲の伊豆侵攻は明応二年から五年に及ぶ長きものであり、明応四年と七年の巨大地震による津波が大きな影響を与えたとする。その意味では極めて現代性に富む研究である。
確実に裏付けとなる史料がないだけに、推論が多く、やや強引な感も受けるが、果敢な歴史見直しを是非味わって欲しい。
笹本正治