三角縁神獣鏡を含む青銅鏡1000面以上の三次元計測のデータベースを元に、復元研究と製作技術論的視点から三角縁神獣鏡「出吹き」生産を唱え、「前方後円墳体制論」に再検討を迫る。
鈴木 勉(すずき つとむ)
1949 年横須賀市生まれ。早稲田大学理工学部卒業。
工芸文化研究所所長、奈良県立橿原考古学研究所共同研究員、早稲田大学文学研究科非常勤講師(金石学)、早稲田大学會津八一記念博物館客員研究員。
〈主要著書〉
『古代の技―藤ノ木古墳の馬具は語る』(共著)吉川弘文館
『ものづくりと日本文化』奈良県立橿原考古学研究所附属博物館
『考古資料大鑑7 弥生・古墳時代 鉄・金銅製品』(分担執筆)小学館
『復元七支刀―古代東アジアの鉄・象嵌・文字―』(共編著)雄山閣
『論叢文化財と技術1 百練鉄刀とものづくり』(編著)雄山閣
『「漢委奴國王」金印・誕生時空論〔金石文学入門Ⅰ金属印章篇〕』雄山閣
『造像銘・墓誌・鐘銘―美しい文字を求めて―〔金石文学入門Ⅱ技術篇〕』 雄山閣 ほか
❖ 第Ⅰ部 三角縁神獣鏡・同笵(型)鏡論 ❖
第一章 同笵(型)鏡論百年
1. 自作の断面計測装置から
(1)過去から未来へ
(2)人類が捨ててきてしまったもの
2. 歴史学と古物調査
(1)古物の調査三要素
a.『集古十種』の時代 / b. 拓本の時代(梅原末治氏の同笵〔型〕鏡論) / c. 写真の時代
(2)写真の時代の計測技術
a. 古物調査の細密化 / b. 写真の客観性 / c. 計測技術の遅れ
3. 古鏡調査の細密化と立体化
(1)二次元半から三次元へ
(2)古鏡調査の立体三要素
(3)データの信頼性とグローバルスタンダード
コラム
Ⅰ-1-1 同笵法・同型法の研究 / Ⅰ-1-2 目録番号、配置、表現 / Ⅰ-1-3 平面写真そして立体観察 / Ⅰ-1-4 三次元CAD と21 世紀の考古学 / Ⅰ-1-5 立体認識方法に革命 / Ⅰ-1-6 古鏡の三次元デジタルアーカイブ / Ⅰ-1-7 無意識的に恣意的な撮影の工夫 / Ⅰ-1-8 金石学における写真の客観性と釈文 / Ⅰ-1-9 計測は国家と社会の基盤 / Ⅰ-1-10 三次元デジタルアーカイブの意味 / Ⅰ-1-11 文化財データベースとグローバルスタンダード
第二章 同笵(型)鏡論と三次元計測
1. 同笵(型)鏡黒塚12 号鏡と同31 号鏡の修正痕(目36-37 吾作四神四獣鏡群)
(1)神像の断面―多様な高低差―
(2)乳の修正
(3)へら押しの修正
(4)へら押し工人の癖
(5)へらの先端角度
(6)仕上げ加工痕
(7)細部から見える鏡作り工房
2. 目21 張氏作三神五獣鏡群の比較(黒塚16・18 号鏡ほか)
(1)乳の修正と仕上げ加工痕
(2)鈕座の修正
3. オーバーハング鏡の発見
(1)三角縁神獣鏡のオーバーハング
(2)倭鏡のオーバーハング
(3)オーバーハング鏡を作った工人の意図
コラム
Ⅰ-2-1 実証性のはき違え / Ⅰ-2-2 データを「見える」ようにする /
Ⅰ-2-3 基準精度と工具 / Ⅰ-2-4 工人の「癖」と技術的必然性 / Ⅰ-2-5 三次元計測の計測密度 / Ⅰ-2-6 オーバーハング
第三章 神獣鏡の型式学的分類から技術的分類へ
1. 精妙・高度・疑似・稚拙薄肉彫り鏡
(1)精妙薄肉彫り鏡
(2)高度薄肉彫り鏡
(3)疑似薄肉彫り鏡
(4)稚拙薄肉彫り鏡
2. 疑似薄肉彫り鏡とオーバーハング
3. 同一工人の手になる鏡
4. 異なる工人による修正
コラム
Ⅰ-3-1 技術移転論
❖ 第Ⅱ部 同笵(型)鏡論と復元研究 ❖
第一章 同笵(型)鏡論を振り返る
1. 同笵(型)鏡論の進展
(1)観察・推定法の弱点
(2)技術論をどう取り込むか
(3)復元研究の大切さ
2. 同笵(型)鏡論の課題
(1)未解決の問題
(2)立体観察で生じた新たな疑問点
3. 復元研究のあり方
(1)観察・推定法から検証ループ法へ
(2)かたちか技術か
(3)技術を隠す技術の存在
(4)技術の四次元性
(5)失敗も大切
(6)実験と要素技術
(7)伝統的な技術は古代の技術に近いか
4. 原鏡と複製鏡の製作技術
(1)原鏡製作技術
(2)複製鏡製作技術
(3)復元の方法
コラム
Ⅱ-1-1 ロウ型の可能性? / Ⅱ-1-2 大刀環頭の検証ループ法 / Ⅱ-1-3 技術を隠す技術 / Ⅱ-1-4 技法と技術
第二章 復元研究の準備
1. 復元研究の条件を設定する
(1)実験の条件
(2)鋳造技術者の選定と取り決め
2. 復元研究の目的
(1)目的を限定する
(2)同笵法は可能か?(技術評価の社会的水準と歴史的水準)
(3)踏み返し法での変化
(4)原寸大で復元
3. 原型と鋳型の準備
(1)原型の製作
(2)鋳型の製作
コラム
Ⅱ-2-1 抜け勾配 / Ⅱ-2-2 真土と粘土と気孔 / Ⅱ-2-3 篩の目、砥粒の
メッシュ / Ⅱ-2-4 金属を溶かす
第三章 鋳込み
1. 第1 ~ 3 回の鋳造実験
(1)第1 回の鋳造(2001 年1 月19 日実施、出来るだけ細かい真土を使う)
(2)第2 回の鋳造(2001 年1 月19 日実施、鋳型の乾燥が不足したか?)
(3)第3 回の鋳造(2001 年1 月19 日実施、同笵法に挑戦)
(4)第1 ~ 3 回の鋳造実験の結果と考察
a. 結果 / b. 同笵法の可能性 / c. ひびが出来る鋳型の構造 /d. 文様の不鮮明さへの対処方法
2. 第4 ~ 6 回の鋳造実験
(1)新たな鋳型の構造と製作(第1 ~ 3 回の実験結果を承けて)
a. 二層式鋳型 / b. 粉砕工程を省略した真土の使用 / c. 麻の繊維を混入
した土を使う
(2)第4 回の鋳造(2001 年4 月4 日実施、湯温を下げ、ガス抜けを改良)
(3)第5 回の鋳造(2001 年4 月4 日実施、同笵鏡を再び作る)
(4)第6 回の鋳造(2001 年4 月4 日実施、同笵法の再検証)
(5)第4 ~ 6 回の鋳造実験の結果と考察
a. 結果 / b. 真土の粒度とガス抜きと文様の鮮明度の検討 / c. 原寸大鏡
鋳造のための鋳型材料の推定 / d. 同笵法の可能性 / e. ひび鏡と突線
3. 第7、8 回の鋳造実験
(1)原寸大鏡の鋳型の構造
a. 一層式鋳型 / b. 二層式鋳型
(2)第7 回の鋳造(2001 年6 月4 日実施、原寸大で作る)
(3)第8 回の鋳造(2001 年6 月4 日実施、原寸大で同笵法に挑戦)
(4)第7、8 回の鋳造実験の結果と考察
コラム
Ⅱ-3-1 試料の名称の付け方 / Ⅱ-3-2 のっぺらぼう / Ⅱ-3-3 鋳型の収
縮とひび / Ⅱ-3-4 一層式鋳型と二層式鋳型
第四章 考 察
1. 同笵法の可能性について
2. 観察・推定法と検証ループ法
3. 抜け勾配と鋳型の欠損の関係を検証する
(1)抜け勾配がある場合
(2)抜け勾配が無い(勾配3.1 度)場合
(3)逆勾配(オーバーハング)がある場合
(4)抜け勾配とオーバーハング
4. 同笵法と同型法における文様の鮮明度の変化を検証する―鋳造をするたびに鋳型はすり減るのか?―
5. 鋳型の欠損に起因する突起はどう変化するか?
6. 「鋳型のひびは成長する」か?―二層式鋳型の着想―
(1)二層式鋳型の乾燥工程でひびが発生
(2)鋳込み工程でひびが発生
(3)突線の発生と鋳型の欠損
(4)鋳型のひびは成長するか?
(5)鋳型のひびと同笵法の可能性
(6)突線と凹線の問題について
7. 鏡は収縮するか?
8. 収縮とひびの関係について
9. 鏡の反りを検証する
(1) 踏み返しによる反りの変化
(2) 同笵鏡の反りのばらつきを検証する
(3) 同型鏡の反りのばらつきを検証する
(4) 反りを考える
10. 復元研究のまとめ
(1) 同笵法について
(2) ひび、鮮明度、鋳造順序について
(3) 鋳型の欠損、突起について
(4) 収縮とひびと二層式鋳型について
(5) 反りについて
コラム
Ⅱ-4-1 検証ループ法の推奨 / Ⅱ-4-2 文様の鮮明度と鋳造順序 /
Ⅱ-4-3 三角縁神獣鏡の計測 / Ⅱ-4-4 古鏡の反りと工学者の参加態度
❖ 第Ⅲ部 同笵(型)鏡論の向こうに ❖
第一章 三角縁神獣鏡の仕上げ加工痕と製作地
1. 鏡を鋳造した後の加工
(1) あら加工
a. 湯道、鋳バリの除去(切断加工など) / b. 鋳肌の除去(砥石や砥粒を使ったあら加工) / c. 大きな除去加工(平セン、ヤスリを使ったあら加工)
(2) 仕上げ加工
a. 切削加工 / b. 研削と研磨
2. 鏡背面の三角縁の内側と鋸歯文周辺の仕上げ加工の再現実験
(1)ヤスリで切削加工
(2)硬い砥石で研削加工
(3)遊離砥粒と皮革で研磨加工
3. 仕上げ加工痕の比較検討
(1)同笵(型)鏡群の比較
a. 目3 波文帯盤竜鏡群 / b. 目9 天王日月・獣文帯同向式神獣鏡群 /c. 目16 陳是作四神二獣鏡群 / d. 目21 張氏作三神五獣鏡群 /e. 目35 吾作四神四獣鏡群 / f. 目44 天王日月・唐草文帯四神四獣鏡群/g. 目70 天王・日月・獣文帯四神四獣鏡群/ h. 目70 天王・日月・獣文帯四神四獣鏡群 / i まとめ
(2)同一古墳出土鏡の比較
a. 湯迫車塚古墳 /b. 佐味田宝塚古墳 /c. 椿井大塚山古墳 /d. 黒塚古墳
(3)異なる古墳の「研削」鏡の比較
(4)仕上げ加工痕から見えること
4. 三角縁神獣鏡の製作体制について
(1)鏡背面の仕上げ加工はいつ行われたか
(2)三角縁神獣鏡の「原鏡」と「複製鏡」
(3)鋳型を修正した工人
(4)ひび鏡と二層式鋳型について
5. 三角縁神獣鏡と移動型工人集団
(1)中央集権的な技術史観
(2)三角縁神獣鏡の工人集団の本貫地は大和盆地内
(3)系譜論と製作地論を分ける
(4)「原鏡」の製作地
コラム
Ⅲ-1-1 かたさって何? / Ⅲ-1-2 研削と研磨の違いは? / Ⅲ-1-3 観察・推定法から検証ループ法へ / Ⅲ-1-4 ヤスリはいつ頃から使われた? /Ⅲ-1-5 天然砥石と人造砥石 / Ⅲ-1-6 真土と砥粒 / Ⅲ-1-7 原鏡と複製鏡 / Ⅲ-1-8 出吹きと移動型工人集団 / Ⅲ-1-9 出吹きに対するヤマトの特注説 / Ⅲ-1-10 鋸歯文を作る技術
第二章 三角縁神獣鏡・技術移転論
1. 薄肉彫りの技術移転
(1)画文帯神獣鏡から三角縁神獣鏡へ
(2)精妙から高度へ、そして疑似、稚拙薄肉彫り鏡へ
2. 鋳肌の技術移転
(1)鋳肌
(2)鋳肌と薄肉彫り技術
3. へら押しの技術移転
(1)技術的距離
(2)異なる鏡を同一工人が作る
4. 鋸歯文の技術移転
5. 仕上げ加工の技術
6. 二層式鋳型の技術
(1)二層式鋳型の着想
(2)突線と二層式鋳型と薄肉彫り技術の関係
第三章 三角縁神獣鏡と古墳時代
1. 古墳時代研究と三角縁神獣鏡製作地論
(1)前方後円墳体制論と鉄・三角縁神獣鏡
(2)三角縁神獣鏡の製作地
(3)実証とは
(4)ヤマト王権の前方後円墳体制論から列島各地の前方後円墳文化論へ
2. 前方後円墳文化論
(1)同笵鏡の分有関係はなかった
(2)前方後円墳文化論について
3. 型式学的分類と技術的分類
おわりに〈同笵(型)鏡論の向こうに〉
謝 辞
写真掲載三角縁神獣鏡等所蔵機関